『スペース カウボーイ』にみる家族

(presented by Mr.ショックリー)

2000年に公開された『スペース カウボーイ』。白黒画面から始まる絶妙なイントロから、NASAでの会議場面までサクサクと話は進んで行くのですが、やっと現代のイーストウッド登場シーンで、「オヤッ」と思いました。なんとイーストウッドは、奥さんと日曜大工なんぞしているではあーりませんか!しかも70歳すぎても、まだ奥さんとLOVELOVEな様で、物置小屋のドアが故障したのをいい事に、イチャつく始末! あれ〜何か変だな・・・。

過去、何作も彼の出演作品を見てきて、こんなに幸せそうな「家族の風景」を見た事はありませんでした。
ちょっと調べてみますと、西部劇を除く、彼の作品での結婚度は・・・、
既婚:7本
独身:9本
となっております。                                                          
既婚の場合でも、死別、カミさんに逃げられた等ばっかり、現在はヤモメ状態で、映画では、ほとんど彼の奥さんを見る事は出来ません。実生活は別にして、何でこんなに彼の映画は奥さんが出て来ないのでしょう? H・フォード主演作品では、その80%(推定)が、幸せなマイ・ホームパパなのに対し、イーストウッド作品では、ほとんどが破綻した家庭が描かれる事がほとんどです。  

 

彼の作品で、家庭がちゃんと描かれた作品は、恐らく『タイトロープ』が初めてで、その時もやや意外な印象を受けましたが、奥さんと離婚し、養育権は彼が取ったのか、幼い女の子2人と暮らす生活。
おしゃまな(死語)娘たちとは、まずまず平穏な家庭を築きつつ、その一方で、倒錯プレイに興じる主人公のダークサイド(これがホントの「あぶない刑事」)が描かれ、2つの対比が際立ち過ぎて、かなり異色の作品でありました。

 

『トゥルー・クライム』でも、家庭は一応描かれるのですが、女グセの悪さから別居中。たまに会う娘(孫みたいですが)と遊んでいても、記者である性分の為、事件の方が気になってしまう、スーパーダメ親父として描かれていましたね。むしろ家族の絆は、死刑囚の黒人の家庭の方に力点が置かれていました。黒人の子供が、死刑執行前に、お絵描きするシーンの素晴らしさ! これを強調したいが為に、わざと自分の方をだらしなく描いたのでしょうか?

そんなわけで、とにかく彼の作品で、極めてノーマルな家族が描かれる事はまずありません。

 

さて、ここで「スペースカウボーイ」に登場する、4人の男たちの家族です。

まずイーストウッドのフランクは、一応奥さんとは、うまく行ってる様子。豪邸とはいかなくても、それなりの御家に住んでおり、暮らしぶりはまずまず豊かな様子。子供がいるのかどうかは、ちょっと不明ですが、独立したというよりは、なんとなく子宝に恵まれなかった感じもややありましたが。

                              

J・ガーナー演じる“タンク”は牧師さん。フランクが訪ねて行くと、奥さんはもちろん、孫もいた大所帯で、とりあえず1番ノーマル。一番イーストウッドの作品とは無縁なタイプの家庭です。ただ一番安定した家族を持っている割に、宇宙に行く事を即決しちゃうのは、このタンクさんなんですな!どうも「家族」というものに安住の場を求めてないように感じられ、興味深いですね。

ちなみに大所帯という点で言えば、無数の研究本で指摘されてる通り、『アウトロー』、『ブロンコビリー』、『ダーティファイター』、『センチメンタル アドベンチャー』のように、擬似家族の集団が、移動する「ロード・ムービー」もイーストウッドさんお得意のジャンルですね。

                               

D・サザーランド演じる“ジェリー”、これは不良中年というかスケベ親父、フランクに最初に紹介した彼女と、結婚してたかちょっと忘れましたが、女を見れば、すぐ口説くプレイ・ボーイぶり。設計技師でいまだに働いてるせいで、リッチな羽振りがよさそう遊び人タイプで、マイホームパパではなさそう。

一見硬派のイメージのあるイーストウッドも、よく見てりゃ、『白い肌の異常な夜』、『恐怖のメロディ』、『アイガー・サンクション』、『トゥルー・クライム』でも、この「オンナ好きの遊び人」は演じてます。個人的にはこれが実際の彼に一番近いと思ってますが・・・。

 

そして、トミー・リーさんの「ホーク」。愛するカミさんと死別し、セスナの曲芸飛行体験なんかで、とりあえず生計たててる侘しい暮らし・・・。でも果たせぬ夢は、密かに胸に抱いてる感じの熱いキャラ。ってこれはもうイーストウッド十八番のキャラでしょう。愛する妻と死別したキャラは、『アウトロー』、『許されざる者』、『ダーティハリー』でおなじみのキャラ。愛する者を失った為に、現在の主人公に深い影を落とし、同時にそれが、主人公の現在の行動に、影響を与えているといった設定は、彼の作品じゃなくとも王道の設定ですね。(『リーサル・ウェポン』然り)

『ダーティハリー』でも、相棒のチコが撃たれ入院、彼の見舞いの帰り道、チコのカミさんと交わす会話が、非常に印象的。ここで、ハリーの奥さんが、酔っ払い運転の自動車事故為に死んだ事が明かになるのですが、被害者よりも、加害者が守られる法の不自然さに憤るハリーの苦しみが感じられました。また、チコの奥さんに、ムリして刑事を続けなくても良いと諭したり、刑事を続ける理由の問いに対し、「わかりません、本当にわからないんです」とつぶやくハリー。ああ〜いいですなぁ、このシーン(涙)。と思わず脱線してしまったっス。すみません。

結局、イーストウッドのキャラ特性を、全て担っているのは、ホークであって、ラストを見てもおわかりのように、安住の場を求め続けたのは「家族」のいないホークが主人公でしたな。
あんな幸せそうな家庭を初めて見せてくれたイーストウッドはあくまで「脇役」でござんした。


てなわけで、この『スペース カウボーイ』は全く異なる家族環境に生きている4人が集合するわけですが、今までのイーストウッド出演作品で彼が演じたキャラが4人に投影されており、非常に興味深い作品でした。

これからのイーストウッド作品で、「家族」がどのように描かれるか楽しみですが、しかしなぁ、クリスマスに孫とプレゼント交換するイーストウッドっていうのは想像できそうもないですね。イーストウッドの女性に対する捉え方なんぞも書いてみたいのですが、長くなりそうなんで、またの機会に・・。

 


inserted by FC2 system