『ミリオンダラー・ベイビー』公開記念

サントラ&DVD最新レビュー

 

皆さん、こんにちは。さて、オスカーを4部門獲得し、そして御大が極秘の来日まで果たして、世間では俄然話題が沸騰している(と思いたいのですが…)イーストウッドの最新作『ミリオンダラー・ベイビー』の日本公開まで、あと3週間と迫った今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

今回はそれを記念しまして、3月にリリースされた『ミリオンダラー・ベイビー』のサントラCDと、そしてこの4月にリリースされたばかりの、あの作品のDVDを紹介したいと思います。

まずは『ミリオンダラー・ベイビー』のサントラです。前作の『ミスティック・リバー』同様、堂々と“Music by Clint Eastwood”とクレジットされた第2弾。御大は今やもう、俳優・監督・プロデューサーのみならず、立派なコンポーザーとして大成したんですね…と思わず唸ってしまう名スコアを披露しております。

オープニングからいかにも御大好みのムーディーな曲“Blue Morgan”(この映画のテーマ曲)でスタートしたかと思うと、2曲目はいきなりカントリー・ジャズ。その他、『マディソン郡の橋』や『目撃』を思わせるロマンティックな曲が登場する(一応、ラヴ・ストーリーですから、当然ですね)かと思いきや、ノリノリのビッグバンド・ジャズも顔を見せるという、今回もバラエティ豊かな内容になっております。

前作の『ミスティック・リバー』が、どちらかというと、暗いムードに包まれた内容(まぁ、ストーリーがストーリーでしたからね…)が多かったのに比べ、今回はまるで、往年のヘンリー・マンシーニを思わせるラヴ・ミュージックに比重がかかっているのは、聴いててナンか、ウキウキしてきます。

例によって、御子息のカイル君が作曲と演奏を取り持っている曲もあったりで、イーストウッドの家庭的雰囲気が漂っているのも、ちょっと微笑ましいものです。

最近の映画音楽というと、既成曲をダラダラ流して、何やらミュージック・ビデオに仕立てたような作りが多く垣間見える中、正攻法の構成で挑むイーストウッドの姿は、“廃れゆく西部(ハリウッド)の中で、自分のアイデンティティーを求めて旅するさすらいのアウトロー”のようで、とにかく拍手を送りたいものですね。

“音楽が素晴らしい映画に駄作ナシ”とは、誰が言った言葉か知りませんが、まぁ、中には音楽だけが素晴らしくて、映画の出来は燦々たるモノ…という映画もあるにはありますが、この『ミリオンダラー・ベイビー』の音楽を聴いていると、映画を観なくても“今年1番の傑作”だと確信を持ってしまいますね、確かに。

アメリカでは、映画公開後暫く経ってリリースされたサントラですが、今の所日本盤がリリースされるという情報がないので、今の内に輸入盤ででもゲットしとおいた方が良いのではないでしょうか。そういえば、『ミスティック・リバー』のサントラも、日本では遂にリリースされませんでしたね。何をやっとんネン、ホンマに。

そして、次に紹介するのが、イギリスでリリースされたばかりの『荒野の用心棒』の特別版DVDであります。昨年、アメリカで『続 夕陽のガンマン/地獄の決斗』が2枚組の特別版でリリースされ、それとほとんど同じ仕様で日本でもリリースされたのは記憶に新しい所ですが、今回イギリスで、この『荒野の用心棒』を始め、『夕陽のガンマン』『夕陽のギャングたち』というセルジオ・レオーネ監督作品が、次々と特別版仕様でリリースされたのでした。

で、取り敢えず『荒野の用心棒』です。『夕陽のガンマン』の方は、6月に日本でもアルティメット盤でリリースされるようなので、ここではとにかく『荒野の用心棒』をプッシュ致します。

当然ながら2枚組仕様(アウターケース付きデジパックです!)になっていて、まずはデイスク1の本編映像。これがデジタル・リマスターされていて、とにかく美しい。以前リリースされていた北米盤も、そこそこ綺麗でしたが、今回はさらに輪を掛けたような美しさ。お金を掛けてリマスターされているのが、よ〜く分かりますね。

そして、音声が5.1chサラウンド化されているのも嬉しいですね。オープニングからして、銃声がバンバン、リアスピーカーからグルグル鳴り回っております。あと、新しく、音声解説も付いています。セルジオ・レオーネの研究家として著名なクリストファー・フレイング氏によるもので、これが又、痒いところに手が届くコメントを発しているんですよねぇ〜。『夕陽のガンマン』にも収録されているようなので、日本盤リリースの暁には、是非ともそのまま収録して欲しいものだと切に思いますデス。

これだけでも垂涎ものなのに、特典映像満載のディスク2に至っては、まさに感涙もの! これはもう現物を拝見して頂くのが一番だとは思いますが、取り敢えずザッと紹介しますと…

 

まずは“新種のヒーロー”と題されたドキュメンタリー。先ほどのクリストファー・フレイングが、レオーネが生み出した“名無しのヒーロー”について、熱く語ってくれています。インスパイア(一般的にはパクった…!?)されたと思しき黒澤明の『用心棒』の話も出てきますが、何故か画面には『椿三十郎』のポスターが登場するのが気になりますが…。

 

続いて、“スペインの2〜3週間”と題された、イーストウッドのインタビュー。しがないテレビ俳優だった彼を、世界的なスターに仕立て上げたレオーネの戦略と、それに対する当時の思い出を語るイーストウッドの貴重な話が聴けるファン必見の映像ですゾ。

 

次が“3つの声”と題された、レオーネの友人たちのインタビュー映像。『夕陽のガンマン』『続 夕陽のガンマン』のプロデューサー、アルゲルト・グリマルディ、『ウエスタン』等の脚本家セルジオ・ドナッティ、レオーネ映画の英語吹替え担当ミッキー・ノックスの3人が登場。

   

そして、今回の特典映像、最大の注目が、“幻のプロローグ”(オープニング・シーン)であります。アメリカで1977年にテレビ放映された際に、追加されたといわれるオープニング・シーンで、これが何とも凄い内容、というか、理由付けなんですな。主人公(便宜上ジョー)がサン・ミゲェルの街へ行ったのには、ある指令の為だったという事を示唆するシーンで、その指令を言い渡すのが、ナンとハリー・ディーン・スタントン。留置場から釈放されたジョー(一応、ハットにポンチョに葉巻というスタイル・笑)は、彼の話をただ、ジッと聞いているだけというデクの坊な役割なんですが、それもその筈、それを演じているのはイーストウッドじゃないから。ま、このシーンの為に代役を用意したんでしょうけど、2カットほど、イーストウッドの超アップがインサートされるという、何とも笑ってしまうシークエンスであります。結局、銃も馬も、政府が用意したもので、それを渡された主人公が、馬に乗って街に旅立つまでの、およそ5分程のシーンになっているのですが、こんなものがアメリカのテレビ放映時に追加されたのかと思うと、ナンか情けないやら…。まぁ、アメリカのテレビ放映は、主人公が粗暴過ぎるのはいけないと踏んで、わざわざこのようなオープニングを追加したんでしょうけど、この時に初めて観た人は、名無しのジョーは、政府に命令されて悪いヤツをやっつけている…と思い込んでしまって、他の2本のマカロニ作品も、同じような目で観てしまっているのではないかと思うと、これは危険な事ですな、マッタク…。

という事で、ま、あくまでも参考の為という事で観れば、なかなかオツな映像である事は事実でして、この為だけにこのDVDを買ってもイイんじゃないでしょうか。そう思います。

 

他にも、特典はテンコモリでして、例えば、“ロケ地を訪ねて”は、『荒野の用心棒』のロケが行われたスペインのアルメリア地方を訪れ、当時のロケ地の現代の姿を映しだして、当時の映像と比較するドキュメントで、これがあまりの変わり様で、涙が出る程ビックリする事受け合いというもの。ホント、泣けますよ。他に、オリジナル予告編に加えて、『夕陽のガンマン』とのカップリング予告編も収録。2作品のハイライト・シーンが交互に楽しめるという優れものの予告編の他、多数のラジオ・スポットスチル・ギャラリー、レストア作業の記録等…も収録されていて、とにかく、ファンなら大いに楽しめる事間違いないDVDになっております。

この映画、黒澤プロとの権利関係の件で、日本ではリリースすら危ぶまれている作品なので、今回のように、こんな形で日本盤が出る事は、おそらく当分無いんじゃないかと思われまして、だからこそ、このイギリス盤を大いにお薦めするものであります。ヨロシク!

 

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