ーストウッド映画のマイ・ベスト。ウーン、かなり困ってしまう。

だって、全部傑作なんだもの。どれをとっても、面白い映画ばかりっていうのは、

ちょっと贔屓の引き倒しに聞こえるかも知れないが、

本当なんだから、しょうがない。

まぁ正直言って、2〜3作は、「これはチョット…」というような作品があるのも事実なんだけど。

でも、ほとんどの映画は傑作ばかりなんだから、ハッキリ言って、どれもベストテン級のものばかり。

よく、「今まで観た映画の中で、ベストテンを選んだら?」っていう質問を受けるけど、

そんな時は、イーストウッドの映画を10本並べちゃう。そうすると簡単だし、考えてなくてもイイから。

で、ここでは、そんな選りすぐりの10本を紹介しようと思ったんだけど、

イーストウッド映画は、2000年の『スペース カウボーイ』までで47本ある。

その中から10本というのは、5本に1本を選ぶという事になり、あまりに範囲が狭すぎてしまう。

そこで、出演本数の約1割である5本に絞らせて貰った。

そうすると、かなり濃いベスト作品になるんじゃないかと思います。

 

で、まず1本目。あくまでも順不同って形で選んだのですが、これだけは譲れない。

僕のイーストウッド映画のベスト1作品です。

 

T.『ブロンコ・ビリー』(80)

 

イーストウッドの7本目の監督作品で、とにかく最高傑作。これがイーストウッド映画の頂点。何故最高なのかというと、この映画には、イーストウッドの魅力が全部詰まっているから。それと、この映画が、本当の意味での、等身大のヒーローとしての、イーストウッドが描かれているから。その2点による所が大きいと思います。

主人公のブロンコ・ビリーは、ワイルド・ウエスト・ショウ一座のリーダーで、何かにつけてワンマン主義者でありながら、決して冷たい性格の人間ではなく、仲間や友達を思いやり、そして何よりも、お客さんに楽しんで貰う事を信条にしている、根っからの西部男である点が、そのままイーストウッドのイメージとダブり、まるで、生身のイーストウッドを見ているかのような、そんな印象さえ受けてしまう程で、だから凄く好きになってしまうのだと思う。

全編、どちらかというと、セルフ・パロディ的なムードを形作ってはいるものの、決して笑いのネタにして見せ場を作っているのではなく、あくまでも、スケッチ風に、さりげなく描かれている点も、好感が持てるし。仲間を大切にする所なんかは、やっぱり、イーストウッドの実情に近いものがあるんじゃないかと思ってしまい、いつもこんなアットホームな雰囲気でイーストウッド映画が作られているのかと思うと、何とも嬉しくなってくる。どうりで、仲間が多い筈だ。

この映画で、僕の好きなシーンは3つあります。まず、クライマックス近くで、仲間の一人(サム・ボトムズ)がベトナム戦争の脱走兵だった事が分かり、拘留されている彼を、地元の保安官に頼み込んで保釈して貰おうとする所。保安官は、相手が早撃ちのブロンコ・ビリーだと知って、どっちが早いか対決しようと言い出すのだが、嫌がるビリーは、最初、断っていたものの、仲間を助け出したくて、しょうがなしに対決に応じるが、なにせ相手は本物の保安官。本当に銃を抜いて撃つ事も出来ず、結局、その保安官の「腰抜け!」「一番早いとか言いやがって、この嘘つき!」とかの罵声を浴びながら、必死に屈辱に堪え忍ぶシーン。あれはウルウルきたナー。でも、憧れのスターの本当の姿は、こういうものだという事をイーストウッド自身が体現してみせた、実に貴重なシーンでもあり、ここまで何も出来ずに、ただ、堪え忍ぶだけっていうイーストウッドは、後にも先にも、この『ブロンコ・ビリー』ただ1本である。

それと、その後に訪れる、列車強盗シーン。これも傑作。お金がないからと、昔の西部劇の悪人さながらに列車強盗を企て、実際に、線路を走るアムトラックを追って、拳銃で威嚇しながら馬で追うものの、現代の列車のスピードには敵わず、結局は失敗してしまう、何とも滑稽で、それでいて虚しいシーン。この映画の彼等の人生そのままを活写した、これも見逃せないシーンではあるけれど、「日曜洋画劇場」でこの映画が放映された際、何とこのシーンがバッサリとカットされていたのには、無性に腹が立った。この映画からこのシーンをカットするという事は、あの天覧試合で、長嶋が村山から打ったサヨナラ・ホームランのシーンをカットしてしまうのと、同じ事ではないかと、タイガース・ファンの僕でも思ってしまいました。

それと残る一つのシーンというのは、ちょうど中盤辺りだったですか、イーストウッド扮するビリーが、結婚がイヤで逃げ出してきたソンドラ・ロック扮する金持ちの令嬢に、自分の生い立ちを語るシーン。「俺は、30歳まで靴屋をやっていた。でも、昔から西部劇が好きだった俺は、いつかはカウボーイになる夢を諦めきれず、決意してこの世界に飛び込んだ」と言うビリーは、まさしくイーストウッドそのものの姿ではなかったか。テレビ西部劇で名前が売れ、イタリア製西部劇でスターになり、そしてアメリカの西部劇を代表するスーパースターになったイーストウッドこそ、このブロンコ・ビリーの真の姿ではないのか。そしてその「30歳まで…云々」というセリフが、当時の僕の人生にも影響を与え、僕もこの世界(どの世界?)に飛び込んだものだった。

そういう訳で、僕の人生・生き方に影響を与えたという点でも、この『ブロンコ・ビリー』は、絶対に忘れる事の出来ない作品であると、ここで断言してしまいましょう。

   

 

U.『アウトロー』(76)

 

後はもう、順不同です。まずは西部劇から1本。やっぱり、イーストウッドといえば、西部劇=ウエスタンですもんネ。イーストウッドはウエスタン役者だと思われがちで、まぁ、事実そうなのですが、しかし、意外にも、そんなに多くの西部劇には出演していません。マカロニ3部作を始め、『奴らを高く吊るせ!』『シノーラ』『荒野のストレンジャー』『アウトロー』『ペイルライダー』と、そして『許されざる者』の、合計9本。元々はテレビ西部劇『ローハイド』で人気になり、イタリアへ渡ってマカロニ・ウエスタンに出たから、凄くウエスタンのイメージが強いけれど、こうやってみると、50本近くある主演作の中で9本というのは、普通の役者だと多いとは思えるけれど、これだけで西部劇スターといってしまうのは、何処か違うような気がするのですが、まぁそれだけ、最初のマカロニ3部作のイメージが強烈だったという訳なんでしょう。

で、そんな西部劇の中から1本選んだのが、この『アウトロー』です。イーストウッド監督としても5本目に当たるこの作品、何がイイかって、復讐ものの西部劇という骨格を持っていながら、そして、イーストウッドが得意の流れ者的キャラクターの主人公に扮していながら、これ程観始めた時と観終わった時とで、印象の違う映画も珍しく、終わった後、何とも言えないホンワカとした暖かさ、そして、手応えのある充実感みたいなものを感じる、それも西部劇というのは、この作品以外、あまり考えられない。それだけ、この映画が素晴らしいという事なのだと、もう、勝手に思ってしまおう。

北軍の生き残りに家族を殺された平々凡々な農夫が、復讐の誓いを立て、その後銃の訓練をして、北軍共を皆殺しにしながら、的確に敵を追っていき、その間に“一人の軍隊”と怖れられるようになる過程を描きながら、決して陰惨な内容ではなく、何処かアットホームなムードに満ち溢れているのは、これはイーストウッドが、単なる復讐談ではなく、復讐の道中で色々な人々と出会い、触れ合う事や未知の体験をする事で、人間的に成長していくというロード・ムービーとして作っているからで、これが、その後に隠れたるロード・ムービー作家と言われる由縁となる根幹を成すものであり、その後のイーストウッド映画の方向性を決定付けた作品になっている事が、また重要なポイントであり、そういう意味では、何度でも観てしまう、素晴らしい映画だから、僕は好きです。 

 

 

V.『ガントレット』(77)

 

続いては、これもイーストウッドの監督作で、先程の『アウトロー』の次に監督した6作目。これもまた、ラスヴェガスからフェニックスへ旅する(移動する)、ロード・ムービーの形式をとっており、その間の道中で、エラい目に遭う、うだつの上がらない刑事に扮するイーストウッドの、何とも言えない気だるいムードが楽しめる一編。

一見、派手なアクション映画かと思わせておいて、4万5千発の銃弾をバックに繰り広げられる壮大なラヴ・ストーリーという、実に大胆な映画で、それを、これがきっかけで公私ともにアツアツぶりを披露した、イーストウッド=ソンドラ・ロックの名コンビが演じてくれるっていうんだから、もう雰囲気は最高。全然ロマンチックなシーンはないじゃないか! と、一瞬思ってしまうが、例えば後半、あるモーテルの一室で、束の間の休息をとるカップルの会話一つとってみても、それまでの派手なドンパチが、そこへ至るまでの単なる前奏曲だって事が分かるシーンになっていて、何とも微笑ましい。

母親に電話して、「イイ人が見つかったの。今度紹介するワ」とカワイく言ったソンドラが、電話を切った途端、花束(中にはライフルが入っている)を片手に、「さぁ、行くわヨ!」とイーストウッドに声を掛けるシーンが何とも格好イイのだが、そうやって、女が主導権を握って展開されるこの映画は、ある意味、女性恐怖症でもあるイーストウッドの内面を、外見的に描いた、これまた記念すべき映画だと思え、やはり見逃せない傑作である事は事実だ。

 

 

W.『続夕陽のガンマン/地獄の決斗』(66) 

 

西部劇としては『アウトロー』とタブるけれど、やっぱり、マカロニ・ウエスタンからも1本選んでおきたい。レオーネ監督とのマカロニ・ウエスタンは3本あり、どれも甲乙付けがたい傑作なので、1本だけ選ぶのが、かなり難しいんだけど、3部作の集大成的な意味で、3作目のこれを選んだ。2時間40分(イタリア版は3時間!)もあるこの長尺作品、まさに叙事詩というに相応しい内容で、レオーネ監督が、いかにアメリカに傾倒しているかという事が、よく理解できる作品。

しかし、この映画が面白いのは、そんなレオーネの思いよりも何も、原題にもなっている“イイ奴、悪い奴、汚い奴”の3人のキャラクター中心に展開されるストーリーが、面白いからである。徹底的に悪いリー・ヴァン・クリーフ、汚くて阿漕なヤツだが、何処か憎めないイーライ・ウォラック、そして、イイ人(と、テレビ放映版では山田康雄氏の声が言っていた)のイーストウッド。でも、よーく考えてみれば、一番ズルくて悪いのは、イーストウッドだって事は一目瞭然なんですが。それでも格好イイから、許しますネ。

全体的にユーモアたっぷりで、後半の南北戦争シーンは、ちょっと哀愁を誘ったりしていますが、そんなのはあくまでも、その後に続く、三角決闘シーンの前フリでしかありません。とにかく徹底的に、アメリカ的な西部劇に追いつけ追い越せと、レオーネ監督が精魂込めて作ったマカロニ・ウエスタンの最高傑作だと、僕は思います。

 

X.『ダーティハリー』(72)

 

で、最後がこの作品。もう説明不要ですネ。僕ももう、この映画に関しては語り尽くしたので、あまりとやかく言いません。ドン・シーゲル監督に言わせると、「最初から最後まで、暴力に敷き詰められた作品」という事ですが、まさにその通り。今観ても、この映画が描く殺伐とした暴力、意味の無い暴力、理由のない暴力には、辟易してしまう程ですから、この映画が公開された当時は、さぞかしビックリしたろうにと思います。

この映画が完成するまでのエピソードは、別のコーナーに書きましたが、もしこのハリー・キャラハン役をイーストウッドが演じていなかったら、今のイーストウッドがあったかどうか、イヤ、彼の事だから、それでも大成はしたと思いますが、それでも、その事を考えると、ちょっと恐ろしくなります。今となっては、イーストウッド以外のハリー・キャラハンは考えられませんが、やっぱりこの映画、イーストウッドの運命を左右した、とてつもない名作だと言えるでしょう。

   

 

※ 他のお気に入り作品

        作品名

       監督

理由

『ファイヤーフォックス』(82) クリント・イーストウッド 夜明けにファイヤーフォックスが飛び立つシーンが感動的だから
『ダーティハリー4』(83)

      〃

逆光にシルエットで浮かぶハリー・キャラハンの姿に惚れた!
『ルーキー』(90)       〃 評判悪いけど、ダーティハリーのその後の姿のようで、興味深いから
『許されざる者』(92)       〃 最後の西部劇、だから…
『マディソン郡の橋』(95)       〃 これも色々言われていたけど、ここまで泣かせてくれたら、脱帽です
『スペース カウボーイ』(00)       〃 さりげなく泣かせる所が気に入りました
『荒野の用心棒』(64) セルジオ・レオーネ 盗作ではなく、模倣だと思うから…
『夕陽のガンマン』(65)       〃 これを観て、西部劇が好きになったっていう人、結構多いのでは…
『戦略大作戦』(70) ブライアン・G・ハットン 戦争はいけないが、戦争映画は、楽しくなくっちゃ!
『サンダーボルト』(74) マイケル・チミノ チミノ監督にも、こういう映画を撮る力があったんだと、今になって感慨深く思う
『アルカトラズからの脱出』(79) ドナルド・シーゲル シーゲルの演出、イーストウッドの演技、全てがパーフェクト!
『ザ・シークレット・サービス』(93) ウォルフガング・ペーターゼン これも、ダーティハリー・パロディっぽくて、好きです。

 

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