硫黄島からの手紙
Letters from Iwo Jima
★アメリカ*マルバソ・プロ/アンブリン・エンターテインメント/ワーナー・ブラザース/ドリームワークス 2006年度作品 |
★スタッフ | |
監督■クリント・イーストウッド、製作総指揮■ポール・ハギス、製作■クリント・イーストウッド/ロバート・ロレンツ/スティーヴン・スティルバーグ、脚色■アイリス・ヤマシタ/ポール・ハギス、原作■栗林忠道/吉田津由子、音楽■カイル・イーストウッド、撮影監督■トム・スターン、編集■ジョエル・コックス/ゲーリー・ローチ |
★キャスト |
渡辺謙 | … | 栗林忠道中将 | |
二宮和也 | … | 西郷 | |
伊原剛志 | … | バロン西 | |
加瀬亮 | … | 清水 | |
中村獅堂 | … | 伊藤中尉 | |
渡辺宏 | … | 藤田中尉 | |
坂東匠 | … | 谷田少尉 | |
松崎悠希 | … | 野崎 | |
山口貴 | … | 柏原 | |
尾崎栄次郎 | … | 大久保中尉 | |
裕木奈江 | … | 花子 | |
坂上信正 | … | 大杉少尉 | |
島秋子 | … | 主婦 | |
ルーカス・エリオット | … | サム | |
ソニー斎藤 | … | 遠藤衛生兵 |
★おはなし | |
戦況が悪化した1944年6月の硫黄島。人海戦術で上陸し攻撃を加える米軍と、島を死守せんと陸軍中将・栗林忠道率いる日本軍との激烈な戦いが繰り広げられる…というおはなし。 |
★ひとこと | |
前作『父親たちの星条旗』と一対を成す、“硫黄島2部作”の第2弾。前作が、アメリカ側から見た硫黄島だったのに対し、今回は日本側から描いた硫黄島という事で、同じテーマの戦争ドラマを、双方違う視点から描いたという、映画史上初の試み。戦勝国と敗戦国という大きな違いが前提にあるにせよ、これ程までにタッチの違う2部作も珍しく、両作共に同じ監督が演出しているとは思えない程の仕上がりで、今回は完全に日本流というか、日本独特の湿ったタッチになっている点は、見逃せない。まるで、イーストウッド監督に日本人の魂が宿ったの如く“ジャパニーズ・タッチ”が旺盛で、こういう変化球的手腕が発揮できるのも、イーストウッドならではと言ったところだろうか。見事である。
前作が、過去と現代とが交錯するフラッシュバックが多用された演出で、その間に展開する戦闘シーンが迫力満点だったのに対し、今回は、“負け戦”を描いているせいか、どちらかというと戦闘シーンも自虐的で、若干の回想シーンはあれど、全体的にはストレートな展開に終始しているのは、日本軍の戦いを克明に追ってドキュメンタリーのようなリアルさを求めたからだろうか。ある意味、誰にでも判り易いストーリーになっていて、“戦争を知らない日本の子供たち”には、受け入れられやすい作品になっているよう。若手のイケメン俳優がキャスティングされているのも、それを狙った効果があり(それぞれの演技も素晴らしく良いのも、イーストウッドの演出の賜物と言えそう)、まるでイーストウッドが、今の日本の若者に「見ろ、これが戦争だ!」と教授しているかのようで、全くもってハリウッド製である事を感じさせない純・和風の戦争ドラマになっている点が興味深く、そういう狙いも含めて、イーストウッドの目論見は、完全に成功したと思えますな。 |
★さらにひとこと | |
聞くところによる、当初は2部作の予定はなく、硫黄島に関する戦争映画という企画で始まったらしいが、作っている間に構成がかなり膨らんだと見えて、1本だけだと、かなり曖昧な内容になってしまうので、アメリカ側と日本側とに分けて描くというプロジェクトに変更されたのは、出来上がった両作品を見れば、それが正解だったと言えますな。とりわけ第2弾の本作は、ともすれば2時間半でも描ききれない程膨大な内容になりそうな作品で、普通に人物描写だとか、各作戦の詳細辺りを克明に描いていたら、もうあと2時間ぐらいは必要な程で、それを敢えて人物を絞り、エピソードも絞る事で、日本軍側から見た硫黄島決戦のドラマを作り上げた所に、イーストウッドの監督としての手腕を感じさせるものがあり、感情移入し易い展開と情感が込められた内容には感嘆させられてしまいます。
今やハリウッドの巨匠になったイーストウッド監督が、ここまで和風テイストの映画を撮ってしまうのは驚嘆に値すべきで、もしこれがスピルバーグだったら、ここまでの作品になったかどうか疑問ですが、こんな映画が撮れるなら、一度、日本人キャストによる日本を舞台にした刑事アクション・ドラマなんかも、イーストウッド御大に撮って欲しい気がしますな。今回は、たまたま題材が日米の戦争ドラマだったから…という事もあったんでしょうけど、上記のような企画をマルパソ・プロにぶつける日本の映画会社なりプロデューサーなりは、居ないものなんでしょうかねぇ。 |
★データ | |
テクニカラー/パナヴィジョン(アナモ)/スコープ・サイズ/ドルビー/dts/SDDS/141分
日本公開:2006年12月9日(ワーナー配給) アメリカ公開:2006年12月20日(WB配給) |